
ローマのテルミニ駅に到着する度に彼のことを考えてしまう。
そう、彼はいつも私をマッシモ宮の一階の展示室で待っていてくれる・・・前に会ったのは、8年前。
やっと今回、8年ぶりの再会を果たすことが出来ました。
彼の名前は "Pugile in riposo" (休む拳闘士)。推定年齢2400歳。ギリシャ生まれ。職業はボクサー。
何故ローマにやって来たのかは知られていません。
私が一生懸命、正面から話しかけているのに、顔は横向き。気もそぞろで、右側の誰かを気にしている。
右足と胴体はひとつながりで、左足、頭部、腕は分けて鋳造されて、後で溶接されています(もちろんつなぎ目は全然見えない完成度)。蝋で原型を作り、周りに他の素材を流して型を作り、蝋を熱で溶かして空洞になった部分に金属を流しいれるという、ロストワックス方式で作られたそうです。
大部分は、銅8割、スズ1割、鉛1割で混合されたものですが、乳首、唇、耳の血、顔のアザなど、赤く変色させたかった部分には、銅を利用してわざと赤みを出しています。
つぶれた耳。2400年前に存在した職人(というかアーチストですね)の緻密なリアリズムと完璧なテクニックに驚かされます。
この像は、同じ展示室に保管されているもう一体の像、「ヘレニズムのプリンチペ」と呼ばれる作品と一緒に1885年に出土します。
推定制作期が大きく違う2つの作品(拳闘士は紀元前400年、プリンチペは紀元前180-160年)が同じ場所から出土したのには訳があります。
地中6メートルの深さから出土したこれら2点の作品は、細かく丁寧にふるいにかけられた土で覆われていたのだそうです。恐らく、盗難や強奪から銅像を守るために隠したのだと考えられています。
自らの世代では発見されることはないと予想した人が死ぬまで抱えていた秘密、誰にも知られずに地中で静かに見つかるのを待っていた2体の銅像、そして地中でじっと座っていた拳闘士を偶然発掘した人の驚き・・・。これらを考えるだけでドキドキします。
今回の一日半のローマ滞在で、ヴァチカン美術館やコロッセオには行かなかったけれど、同じ位、訪れる価値がある面白い観光スポットが沢山あるローマです。
いつかローマに行かれることがあったら、是非彼に会いに行ってください。何か感じるものがあるはずです。
まだまだローマ話、続きます。
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この記事の中で行った場所は、
・ローマ国立博物館マッシモ宮 Palazzo Massimo alle Terme Largo di Villa Paletti 2 ,Roma 9:00-19:45 月曜休館
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