ニコラ・フロマンの祭壇画~ラザロの復活



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二コラ・フロマン ラザロの復活の祭壇画(1461年)

さて、森の修道院で開催されていた企画展は、たった1点のみの祭壇画のためというとても贅沢なものでした。

画家二コラ・フロマンの作品は現在、たった2点しか現存しておらず、もう一つはエクサンプロヴァンスの大聖堂に残るダンジョー王家のために描いた祭壇画のみです。
この祭壇画はフランチェスコ・コッピ―二というプラート出身の高位聖職者の依頼で描かれました。ローマ教皇ピウス2世のために、イギリス、フランス、フランドルを転々とした彼が、フランス人画家二コラ・フロマンの作品を見たか、彼の名声を耳にしたことは容易に想像が出来ます。


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この絵の完成後、2年後の1463年に、依頼主フランチェスコ・コッピ―二はピウス2世から、汚職の罪に問われます。彼は司教の位を奪われ、その後、全ての財産はヴァチカンに没収されました。この祭壇画もヴァチカンの所有物となり、メディチ家を経由し、メディチ家と深い縁があった、このボスコ・アイ・フラーティ修道院に移され、約400年の間、この修道院で大切に保管されていました。

ナポレオンによるフランス軍の侵攻で、フィレンツェの修道院がフランス軍の支配下におさめられた際、この修道院もここに保存されていた全ての作品も、フランス軍の所有物となります。その後、フランス軍の撤退後、イタリア国家の所有物となり、1841年からウフィッツィ美術館に移されました。

現在もウフィツィ美術館の所蔵作品として、普段は所蔵庫で眠っている(もったいない!)この作品は、今回、特別に、期間限定で200年ぶりに、ボスコ・アイ・フラーティ修道院に戻されたのです。

主題は、祭壇画としては珍しい「ラザロの復活」。

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一番左のパネルは、ラザロの姉、マルタがキリストと使途一行に弟の死を告げている場面。
左奥には朝日が描かれていて、一日の始まりを示しています。


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中央のパネルには、キリストが「ラザロよ、出てきなさい」と言い(左手の下にセリフが縦に書かれています)、使途ペトロがラザロの包帯をほどいている様子が描かれています。亡くなってから4日も経っているため、ラザロの体の死斑や、死臭のために口を覆う女性と兵士など、描写細部まで生き生きとしています。



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右パネルは食事の場面です。ラザロの姉、ベタニアのマリアが弟を復活させた救世主キリストの足に香油を注いでいます。左の人物はユダ。マントの下には財布とみられる袋がちらりと見えていて、「高い香油を無駄遣いして勿体ない」と批判しています。

何故、フランチェスコ・コッピ―二がこの主題を選んだのか?そんな謎解きをしたくなるような、興味深い作品でした。

色がとても美しく、恐らくオリジナルであろう額縁も完全に残っています。こんな素晴らしい作品ですが、この展覧会が終わったら、またウフィッツィの所蔵庫に戻され、もしかしたら、もう二度と公開される機会はないかも知れません。あんなに大きな美術館なのだから、展示すればよいのにと思いますが、展示スペースが足りないのだそうです。
そしてもしかすると、この作品も、他の沢山の絵画と一緒に並べられて展示されたら、その良さがあまり伝わらないのかも知れませんね。

森の中の小さな修道院で、500年以上の時を越え、この絵に出会えた偶然。
この展覧会を開催してくれた関係者の人々に本当に感謝します。11月6日に終わってしまいますが、もしかすると延長されるかも?と受付の人が言っていました。会期が延長されたら良いな。

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Commented by shiz at 2022-10-24 12:01 x
時々拝見させていただいているものです。今回は素晴らしい作品を、見ることが出来、感謝します。絶対に目にする事が出来ない上に、詳しい解説まで。有難うございました。
Commented by lacasamia3 at 2022-10-26 15:18
> shizさん、最近修復されて、とても美しい色彩でした。
by lacasamia3 | 2022-10-23 03:36 | フィレンツェから日帰りで行く町 | Comments(2)

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